最高裁判所第二小法廷 昭和44年(オ)787号〔1〕 判決 1971年4月09日
上告人
富士林産工業株式会社
代理人
広瀬通
一松弘
被上告人
株式会社八十二銀行
代理人
岸星一
西幹忠宏
石川礼子
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人広瀬通の上告理由第一点について。
商法二四五条一項一号にいう「営業ノ全部又ハ重要ナル一部ノ譲渡」とは、一定の営業目的のため組織化され、有機的一体として機能する財産の全部または重要な一部を譲渡し、これによつて、譲渡会社がその財産によつて営んでいた営業的活動の全部または重要な一部を譲受人に受け継がせ、譲渡会社がその譲渡の限界に応じ法律上当然に競業避止義務を負う結果を伴うものをいうことは当裁判所の判例とするところである(最高裁判所昭和三六年(オ)第一三七八号、同四〇年九月二二日大法廷判決、民集一九巻六号一六〇〇頁)。ところで、原審は右と同一の見解に基づき、上告人の代表者上原弥市の訴外木曾官材市売協同組合に対する本件物件の売却を商法二四五条一項一号にいう「営業ノ全部又ハ重要ナル一部ノ譲渡」にあたらないと認定判断したものであるが、この認定判断は、原判決(その引用する第一審判決を含む。以下同じ。)挙示の証拠関係に照らして首肯できる。所論の見解は当裁判所の採らないところである。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用できない。
同第二点について。
本件物件の前記売却の当時、本件物件は上告人の営業目的である製材業のために組織化され、有機的一体として機能する財産たることを失つていたものである旨の原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らして首肯でき、右事実認定の過程において採証法則違背も認められない。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用できない。
よつて民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(小川信雄 色川幸太郎 村上朝一 岡原昌男)